もう三十年以上前、弟の原作で「拍手貯金」というマンガを描いたのを思い出した。
主人公はしがないサラリーマンで、なにかと言うとすぐ拍手をする。
誰かにおめでたいことがあった時、誰かが頑張った時、とにかくちょっとしたことで人に拍手を送る。
そんな主人公が死ぬ時、誰もいないはずの病室に、今まで何十年にもわたって人に送った何倍もの拍手が、保険の満期のように男に還ってきて鳴り響くというようなマンガだった。
人が生きてゆくご褒美は、いろいろあって、その中の大切な一つが拍手じゃないかと思ったのだ。
思うに、人間は生まれる時に「母」という「世界」から切り離される。だからもう一度、「世界」と一体になりたいと願っている。
一体になれた!受け入れられた!と感じられるのが、愛であり尊敬であり喝采の「拍手」じゃないかと思うのだ。
だから拍手をもらうことは、生きる喜びに直接的につながってて、お金を通さない喜びの物々交換みたいなものだ。
ボクの経験上、拍手をもらう機会の多い役者さんやミュージシャンは、そんな喜びの源泉がはっきりしてて自分に正直でステキな方が多い。そしてまた生き様や芸術で多くの人に喜びを与える。
今、そんな方たちがコロナでピンチだ。
早く収まって皆が「貯めた」エネルギーを爆発させるステージを観てみたい。
中日新聞 夕刊 2020.3.16 掲載