この前、あいちトリエンナーレの補助金不交付が決着したね。しかしあの騒ぎにはビックリしたなー。
一番ビックリしたのは「不快なものを見せるな」という意見が多かったこと。
あくまで自分の個人的なとらえ方だけど、ボクは美術館のこと「サファリ」だと思ってた。
つまりできるだけ野生のままを観る体験。
昔アフリカに行った時、なだらかなサバンナのそこかしこにヌーの死体が転がっていた。だけど誰も不快だから取り除けとは言わないだろう、それがありのままの姿だから。
人間て洞窟の壁画から始まりホントにいろんなものを作ってきた。
当然中には残酷だったり不安をあおったりするものもある。だけどそれも人間の創造の歴史の中で大切なピースなのだ。それは誰かの好き嫌いや多数決で簡単に決められるものじゃない。
美術館で出会えるのは、サファリで言えば象やライオンといった誰にでも分かるカッコいいものから、専門家にしか分からない貴重な種や進化の先端にいるものまでさまざまだ。
理解できないもの、不快なものもあるかもしれないけど目をそらすのはもったいない。
楽しい動物だけ見たい人はサーカスにいけばいい。優れた作品は混沌とした時代を絞るように、蒸留するように、一滴一滴生まれてくる。
今ボクが観たいのは、この災厄の日々から生まれる美しく獰猛な一枚だな。
中日新聞 夕刊 2020.4.6 掲載