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オヤジの世界
開催日時 2007.07.28 - 10.14
カテゴリー  展覧会(個展)
場所 広島市現代美術館
主催 広島市現代美術館
しりあがり寿が美術館のために本格的にアニメに取り組んだ第一作目と言える本展は、オヤジをモチーフにしたアニメのインスタレーション。
真夏のさなかにスタートした『オヤジの世界』展。広島市現代美術館のひんやりした地下1階ミュージアムスタジオに降りてゆくと、薄暗い空間から「ピュンピュン」「ワハハハハ」「ドンドンドン」などの雑踏音とともに心地よいアンビエントミュージックが漏れ聞こえてくる。 会場に入ると、薄暗い中、ボーッと白い光を放つ作品群が点在し、ゆるやかな音楽が観客を包み込む。外の喧噪と遮断されたこの空間は、清涼感がいっそう際立つようだ。

会場は、大型スクリーン1枚、縦長スクリーン6枚、モニター8台、風に揺らぐ布(スクリーン)で構成されており、それぞれに投影されたモノクロ世界のアニメーションが、闇の中で白くぼんやり浮かぶ、不思議な空間となった。
各スクリーンに登場するのは、いろんな顔を持ったオヤジたち。健康のためになわとびをするオヤジ、バック転をするオヤジ、格闘するオヤジ、ダンスをするオヤジなどなど。
作品は大きく4つに分けられる。

『Rope』:縦長スクリーン6枚に投影されたこの作品は、1スクリーンに1人のオヤジが縄跳びをしているもの。二重跳びに果敢に挑戦するものもあれば、ゆっくりと跳び続けているものもいる。失敗してやり直すものや、あや跳びをするものなど…。そうしてオヤジたちは同じ場所で延々と跳び続ける。「ピュンピュン」と縄を跳ぶ音が交錯し、会場に立体感を醸し出した。

『Piece』:モニター8台に映し出されたこの作品は、日常のカケラをモチーフにしたもの。鉄棒で大車輪をするもの、ニュースを読むもの、集団でダンスを踊るもの、なにやら4本足の動物になっているもの…。日々の雑踏音が重なり、モニターという「箱」の中での出来事が空々しく映し出される。

『Air』:風に揺らぐ布に投影されたこの作品は、オヤジが気持ちよく空間を泳ぐというもの。平泳ぎをしていたかと思えば、くるりと回転し、またフラフラと泳いで行ってしまう…。スクリーンの布には、常に後ろから扇風機で風が送られた。

『Shuffle』:会場正面の大型スクリーンに投影されたこの作品は、シンボリックなオヤジの顔を来場者がトレース、その絵をデータに足してゆき、俊速でランダムに表示するというもの。スクリーン前に、トレース用の専用デスクとコンピューター、ペンタブレットが用意され、最終的に計2000枚ほどのオヤジの絵が集まった。ランダムに表示される映像は、ほぼ繰り返しのないパターンを永遠に紡ぎ出してゆく。全く新しいアニメーションと言えるかもしれない。

これらのオヤジは、日常でありながらどこか非日常であり、コミカルでありながらどこかシュールだ。
しりあがり寿は「オヤジを昇華した形で表現したかった」という。確かに服をまとわないツルンとしたオヤジは、どこか妖精の様でもあり、すでに生き物としての記号を放っているまでにすぎないのかもしれない。 「やっぱり全部同じ顔のオヤジにすればよかったかなぁ」とオープン前日につぶやいたしりあがり寿の頭には、よりいっそう余分な情報がそぎ落とされた、カワイくも浮世離れしたオヤジたちがうごめいていた事だろう。
しかし、結果いろんな顔のオヤジになったことは、「個」の持つ魅力を伝わりやすい形で表現したとも言え、クールな印象の会場をほんのりと賑やかにさせた。
アニメーションという平面の作品ながら、スクリーン配置の妙とトミシロの降り注ぐような音楽で、立体感のある展示となった。
(written by Akiyama m.)

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しりあがり寿が美術館を歩き、案内しながら作品を語る。
動画/撮影・編集:あきやまみみこ
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